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ザ・なつやすみバンド『PHANTASIA』

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ザ・なつやすみバンドの最新作『PHANTASIA』が本当に素晴らしくて、今年の夏は常に心の中心にこのアルバムがありました。
僕らは忘れていく生き物だから、いつかこのアルバムを聴いたときの感動も忘れてしまうのかなーと思いながら、「いやいや!忘れてたまるものか!」「僕はなに一つ忘れないでいたい!」(GOMES THE HIGTMAN『長期休暇の夜』、名曲です)と思い、誰あろう自分のためにこの記事を書くことにしました。
 
このアルバムを端的に表すフレーズ
忘れそうなことをぜんぶ しまっておける魔法の装置を起動させることば
このアルバムはつまりそういう装置のこと。
このアルバムには、夕暮れの余韻や、ご飯が出来て嬉しそうな君や、そんな忘れてしまいそうな、けれどかけがえのない瞬間が収められています。
みずみずしい恋心が、宇宙さえも突き抜けるような全能感につながっていくあの瞬間も。



と、このアルバムには過去のかけがえのない記憶が沢山詰まっていて、時に甘く感傷的な気分に誘われてしまう。
けれどこれを単なるノスタルジアや懐古主義だと思うなかれ。もちろん、「毎日がなつやすみだったらいいのにな」というコンセプトを掲げてきたバンドらしく、刹那や郷愁が音や言葉に溢れているのだけれど、その目線はあくまで今に向けられているではないか。これは過去と今をつなぐアルバムだ。
 
なつやすみバンドがこのアルバムで歌っているのは、忘れ去られた過去の記憶(=今まで歩んできた道のり)もきっと今を照らしているということだ。そう、星の明かりが遥かな時を超え今の僕らに届くように。
ウミネコの声と追い風に
揺れるのは未来と過去
終わりと始まりがきらめいた!
大人になったら見えた魔法がある!
また、そんな過去の記憶(=今まで歩んできた道のり)は時に、今の自分だけでなく誰かを照らす瞬間がある。
そうして紡いだ点と線は誰かにとっての道しるべ
はなればなれのセンテンスがあなたで交わるシノプシス
『PHANTASIA』はそんなある種の生の肯定を、夏休みという世界の中に描いたこの世にたった一つのアルバムだ。でもそんな堅苦しい言葉このアルバムには似合わないな。時に郷愁や感傷に引っ張られながらのんびりダラダラと聴くのがよく似合う。以前より格段に広がりを持った音に、中川理沙さんの夏の優しい風のようなボーカルがふわっと乗ると、スチャダラパーよろしく「あれ、なんかいい風」と言ってしまいたくなるではないか。
 
このアルバムの中から好きな曲を一つだけ選べと言われたら、『GRAND MASTER MEMORIES』かな。というか、多分この曲について書きたいっていうのがこの記事を書いた最初の動機。そのくらい好きで、本当に聴くたび泣きそうになってしまうのだ。
子供の頃の夏休みに見た光景がそのままの形で目一杯詰め込まれてるじゃないですか。パクチーの味も子供がどこからやってくるのかも知らなかった僕らが見てたのはきっとこんな世界。「学級閉鎖まであと一人」とか、なんて絶妙なんでしょう。
 
しかし僕たちは大人になるにつれてそんな光景をどんどん忘れていく。今ではパクチーの味も子供がどこからやってくるのかもちゃんと知っているけれど、それと引き換えに失ったものも沢山ある。あの頃の僕らの声はだんだんと遠くなってしまう。
でも、ここで歌いたいのはそんな甘ったれた喪失なんかじゃない。だって、寂しいけど、寂しいけど、きっとそんなの嘘なんだもん。忘れたはずの何かも、きっとどこかに残されてる。それは記憶の片隅かもしれないし音楽の中かもしれない。
この曲で最後に何度も繰り返されるのは「全部忘れるなよって」という過去そしてなつやすみバンドから、今の僕らへの語りかけ。ズルいよそんなの。泣いちゃうに決まってるじゃん。
 
僕が今まで本当に泣きそうになった曲を一つ挙げろと言われたら、クチロロの『いつかどこかで』になるわけで、そういう、本来見過ごされていく、忘れられていくはずの瞬間を収めた曲にどうも弱いみたい。もはやポップミュージックはそういう瞬間を掬い取る為にあるという気にすらなってきます。

なつやすみバンドの1stの名ライン「世界が忘れそうなちっぽけなこともここでは輝く」。今でもそのラインが生きていて、僕はそんな音楽をいつだって大事にしていきたいと思ってしまいます。
その他にも、嫁入りランドのあっけらかんとしたあどけない声のラップや、アウトロのフルートの音色など、あの頃の夏と今をつなぐ素晴らしい音に溢れてる。
 
人生最後の夏休み(なんて感傷的でナルシスティックな言い様!)に、このアルバムに出会えてよかったなーなんて思います。きっとこれから今まであった大事なこといっぱい忘れてくんだろうね。そんなことに心を痛めたら、すかさずこのアルバムを手にしようと思います。
 
最後に、今まで書いた戯言や能書きの全てを超越するような、フレーズを引用したいと思います。
触れた瞬間 理屈も超えてゆくなら
限られた時間でも ここにいる意味はあるでしょう? 
なんてこった!ポップミュージックが存在する理由そのものじゃないか!と、大袈裟に驚いてみても良いのではないでしょうか。
 
 
P.S.
8/20.21にピーナッツキャンプというフェスに行ってきました。
朝っぱらから青空の下ビール片手に聴くなつやすみバンド最高でした。もちろんこのアルバムからのナンバーも良かったんだけど、S.S.Wが素晴らしかった。いつまでたっても大人になれずに夏休みと週末を行き来する僕らのとっておきのアンセムだ。
全然関係ないけどサニーデイトモフスキーヒックスヴィルなどもとても良かったし、スチャダラパーサマージャムを聴けたのは本当に嬉しかった。そんな夏の思い出でした。